AGA治療薬、フィナステリドの効果

薄毛が目立ち始める年代は人によって違いますが、AGAの大きな特徴はいったん症状が発症すると、それが年月とともに進行し止まることはないという点です。ですから、AGAの対処としていかに進行を食い止めるかというディフェンスの視点がAGA治療では重要になり、その点で最も重要なAGA治療薬がフィナステリドになります。

ここで実際の患者の例を挙げてフィナステリドの効果を見てみます。

Pさんは20代の営業職の男性会社員です。タバコもお酒も口にしませんが、20歳をすぎる頃から頭頂部が薄くなっているような気がしていました。最初はフケや頭皮に以上は感じませんでしたが、しばらくすると頭皮が痒くなり、散髪屋さんで毛穴の周囲に赤い発疹ができていると指摘されました。いわゆる毛嚢炎です。また、頭皮が脂性になっていました。

その後も頭頂部から前頭部、生え際と薄毛が拡大していき強いストレスを感じるようになり、そのせいで人前に出るのが怖くなり休職していたこともあります。髪に良いと言われる 市販のシャンプー、育毛剤、サプリメントなどいろいろ試しましたが、その効果に満足することはありませんでした。

病院に行ったところ、診断は男性型脱毛症(AGA)で、ハミルトン・ノーウッド分類の5と診断されました。かなり進行している症状です。そこで、AGA治療薬として、飲み薬と塗り薬、それにサプリメントを組み合わせました。1ヶ月後にはDNA検査の結果が出てフィナステリドの効果が出にくいタイプとわかったため、フィナステリドを増量しました。3ヶ月目には本人も発毛を実感し始めてかなり治療に前向きになっていました。その後も経過は順調でさらに明るい雰囲気になり、本人の満足度も非常に高い状態です。

 

この患者さんは非常によく効いた例に見えるかもしれませんが、実はよくある典型的な症例です。

 

それではこのフィナステリドはどのようにAGAの進行を食い止めるのでしょうか?と、その前にまず、人の毛髪の仕組みについて説明しましょう。

ヘアサイクルとは?

人間には頭部だけで10万本の髪の毛が生えていると言われています。一本一本の髪の毛は毛母細胞の分裂により伸び続けます。この期間を成長期と呼びます。髪の毛の成長期の長さは一般に2〜8年と言われています。この成長期を終えると髪は約2週間の退行期を経て、約3ヶ月かな休止します。この期間をそのまま休止期と呼びます。この旧式を終えると再び毛根の毛母細胞が分裂を始め成長期に移行します。

このように人間の毛髪は成長期、退行期、休止期を繰り返しています。

ここで脱線。通常頭髪の約1割は休止期に入っていると言われています。10万本の1割ですから1万本が3ヶ月の休止期の間に抜け落ちている、ということになります。なので平均すると1日に百本程度の髪の毛が抜けていることになります。よく抜け毛が増えた、と心配している人がいますが、実は100本程度の抜け毛は正常なヘアサイクルにすぎないということがお分かりいただけるかと思います。

 

AGAのメカニズム

ヘアサイクルの成長期が短縮し、太く硬い毛が、細く短い毛に置き換わっていくことで始まります。

普通なら5〜6年成長し続ける毛髪が1年くらいの成長期を経て抜けてしまうようになり、結果として毛髪が太く長く育たないのです。そうして萎縮した毛根から生まれた毛はまた太く長い毛を生やさないようになり、頭髪にはうぶ毛のような毛ばかりになっていきます。毛穴の中にはもう毛を生やさなくなるものも出てきて、薄毛は一層進行してきます。

こうしたAGAのメカニズムで重要な役割を果たしているのがジヒドロテストロンです。

ジヒドロテストステロンは男性ホルモンのテストステロンが5α-リダクターゼと言う還元酵素によって作られる体内の物質です。これが毛乳頭を委縮させ、毛母細胞の増殖が抑えられます。そのため、先ほどの硬い毛の軟毛化、つまり髪の毛の毛が太くかたく育つ前に抜けてしまい、細く短い毛が多くなるという症状が進み、薄毛が目立ってきます。これが男性型脱毛症の原因です。

 

フィナステリドの働き

AGAの原因物質であるジヒドロテストステロンを作る酵素5α-リダクターゼには2種類のタイプがあります。Ⅰ型と呼ばれるものは前身の皮脂腺に広く存在しますが、Ⅱ型は前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞、毛母細胞と前立腺にだけ分布しています。

この2型の5α-リダクターゼと言う還元酵素の働きが強くなることで、つむじの辺りの頭頂部や前頭部の毛乳頭や毛母細胞に関わるジヒドロテストステロンが増え、AGA症状が進むことになります。

フィナステリドはこの2型の5α-リダクターゼのみをブロックし、その働きを抑える作用を持っています。そうすることで、前頭部や頭頂部の硬毛の軟毛化を促進するジヒドロテストステロンの増加を防ぎ、AGAによる薄毛、脱毛の進行を食い止めます。

このフィナステリドの効果は絶大で、3~6か月使用すると、脱毛や薄毛の進行が抑えられ、確かに抜け毛が減ったと実感する人が多いことは臨床試験でも確認されています。AGA治療の標準薬と言われるゆえんです。

ある有名な大手AGAクリニックでも70~80%の患者に薬の効果を確認できるとしていました。

ただ、これはあくまで医師から見た効果であって、患者の満足度とは別の尺度です。実際、患者さんは中学生や高校生の頃の髪のボリュームを取り戻したいといったイメージを持っているので、医師から見た臨床効果と比べると満足度が低くなる傾向があります。

 

参考:AGA・薄毛は遺伝するか?

父親が禿げているとハゲる?

よく「父が剥げているので私は必ず禿げる!」とか、「母方の祖父が剥げているので私も将来禿げる」といった会話が良くありますが、禿げは流行遺伝するのでしょうか?

結論から言うと、薄毛やAGAには遺伝的な素養と言うものが関係していることが分かってきています。例えば、5α-リダクターゼと言う酵素の体内での分布は遺伝の影響があることが分かっています。また男性ホルモンに対する感受性は母方の遺伝子の影響を強く受けることも分かっています。

前回説明したように、還元酵素5α-リダクターゼの働きでジヒドロテストステロンと言う体内物質が増えることから男性型脱毛症(AGA)は進行します。この5α-リダクターゼの頭部での分布は、その人がどのようなパターンで脱毛していくかという事に強く関係していて、この分布が両親からの遺伝子の影響を強く受けています。

例えば、父親が薄毛の場合、その人が剥げてきた場合、同じような禿げ方になることがあります。父親が両サイトのそり込部分が食い込んでいくように禿げるM字型に属する場合、その子供もM字ハゲになる可能性があります。

男性ホルモンに対する感受性は、母親の父親、つまり母方のソフトの遺伝的な関連の可能性が考えられてます。昔からハゲは隔世遺伝(祖父母からの遺伝)という説がありますが、これも単なる迷信とは言い切れなさそうなのです。

ただし、父親や母方の祖父が薄毛だったからと言って、必ずしもその人が禿げるかどうかは分かりません。薄毛、抜け毛には様々な要因が絡み合っていますので、いたずらに悲観するのは正しい態度とは言えません。

 

遺伝子診断

こうした遺伝的な関係という観点を使って、AGA治療でのフィナステリドの効果をあらかじめ予測することができます。それが遺伝子診断です。

実際の診療の現場では、同じようにフィナステリドを使っても、より有効に作用する人と、どちらかと言うと聞きにくいタイプの人がいることが分かります。

それは、男性ホルモンに対する感受性に関係していて、男性ホルモン受容体遺伝子のDNA検査をすることによって調べられるようになりました。そのおかげで、適切なフィナステリドの投与量を決められるようになりました。

AGAの原因物質であるジヒドロテストステロンは、男性ホルモンのテストステロンが5α-リダクターゼの働きにより変換させられたものですが、テストステロンよりも強力な男性ホルモンの一種です。とは言え、他人によっては全く反応しない人もおり、ジヒドロテストステロンにどれだけ敏感に反応するから、遺伝的に決定されていると考えられています。

少量のジヒドロテストステロンでも反応する人には、フィナステリドは少量で、ジヒドロテストステロンに反応しにくい人には、増量して5α-リダクターゼの働きをしっかりブロックすることで、AGA症状の抑制を効果的に行うことができます。

遺伝子検査を少々詳しく見てみます。

この遺伝子検査で調べるのは、男性ホルモン受容体遺伝子の6つのエクソンのうち第1エクソンです。

男性ホルモンは身体の中で様々な役割を持っていますが、その働きは受容体と結合することで初めて発揮されます。

その受容体の設計図に当たるのが男性ホルモン受容体遺伝子と呼ばれるもの。男性ホルモン受容体遺伝子の中で、シトシン―アデニン―グアニンとグアニン―グアニン―シトシンと言う塩基配列の繰り返し回数の合計が40回以下の人は男性ホルモンに対する感受性が高く、少量のフィナステリドでも薄毛の進行を抑えられることが今は分かっています。

 

参考文献

講談社「薄毛・抜け毛を直す」 小林一広、脇坂長興、武田克之著

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